※ この記事は書きかけです。
みなさんは、「よく狙った直接圧迫法」をご存知でしょうか。
日本空糸では、救急救命の技術を学ぶために"Wilderness"を社内教育の一環として取り入れています。 出血したとき、止血のために血液凝固を目的とした患部圧迫を行ういうのは常識かもしれせんが、Wildernessでは「よく狙った」という言葉を冠して習います。これは、傷口...の出血箇所を狙い定めて、圧迫止血するというものです。
今回は、オンロープ技術において「よく狙う」べきポイントについて考察してみます。
※オンロープ技術:各種あるロープ技術の中で、特に人をぶら下げるために使うものをここでは便宜的にオンロープ技術と表現してみます。
バックアップをとれ!
日本のオンロープ技術者の間において、「命綱」という用語は死語...になるべきと思っています。というのも、自分に取り付けられたロープにすべてを委ねている私達にとっては、すべてが命綱といっても過言では無いからです。
オンロープ技術においては、命綱の種類を区分しないと話が前に進みません。
法律用語にもなった「ライフライン」を直訳して、命綱...という対応の仕方もあるかと思いますが、現場レベルでは混乱を招くことになりかねません。
どうしても英語と日本語には語彙やニュアンスの違いがありますし、和訳よりも優先すべきは、正しく区分出来ることであるはずで、それが出来ずに和訳をすることは危険です。
「ライフライン」というのはつまりバックアップのラインを指します。
メインに対応して、サブという人もいるでしょう。いずれにせよ、主として身体を預ける以外のラインを指します。
バックアップをとれ!という言葉は、どの業界においても共通言語と思いますが、環境において重きを置く点は異なってくるだろうなと思っています。この(潜在意識レベルかもしれない)環境の違いを意識すことは、異業種交流をもって、ロープ技術を次の時代のものに昇華させるために不可欠な事柄と捉えています。
2系統化が難しい場合
2系統化すること自体が現実的ではない状況が、現実には存在します。
環境的な要因によるものですが、考えられるのは以下の2つです。
- 持ち込める資材に限りがある場合
- システムの2系統化よりも、作業スピードが命に直結する場合
です。
さらに絞り込めば、「リソースが限られている」という言葉に尽きるでしょう。
この場合、よく狙った2系統化(部分的な2重化)をする必要性が出てきます。
さらにここに、レスキューの大原則...レスキュアー本人の安全が第一であり、二次災害の発生は防がなければならないという事項が加味されると、話はいよいよややこしくなっていきます。
それぞれの環境において、資材と時間が限られているとすれば...出来ることだけに注力する可能性も視野にいれるべきです。
特に緊急時においては。
例で見る「よく狙った2系統化」
樹上作業(ツリーワーク)
移動はDdRT(1anchor, 1line)を基本とするが、刃物を取り出すとき2anchor,2lineに変更する。 SRTにおいても(1anchor,1line)と見なす事ができるでしょう。
※ ボトムアンカーのSRTの場合、エントリーした枝又が折れた場合に、下の枝にかかるという可能性があるという主張もありますが...ケイビングSRTにおける、バックアップアンカーシステムと同列に扱おうとしても、自由落下距離が長く許容しにくい側面があり...検討中です。
特有の事情
- 自身の持っている刃物によるロープ切断リスクが高い
- 樹皮でロープを切る可能性は極めて低い
- 健全な幹からアンカーをとってしまえば、アンカー破断リスクは低い
山岳救助(マウンテンレスキュー)
アクセス時はSRT(1anchor, 1line), 救助時に2anchor, 2lineに変更。
特有の事情
- アンカー破断リスクが高い(特に植生が薄いエリアではアンカーが乏しい)
- ロープ切断リスクが高い(特に植生が薄いエリアでは岩との擦過リスクが高い)
- 携行できる機材に限りがある(歩行距離、作戦行動時間が長い)
30kgの装備をビルの屋上に持っては行けるが、30kg背負って20km先まで10時間かかる...となると現実的に装備は減らすことになる。
登山(マウンテニアリング)
通常のクライミング:シングルロープ10mm程度x1 アルパインクライミング:ハーフロープ8mm程度x2 ヒマラヤ遠征など:ハーフロープ8mmx2+セミスタ8~9mmx1(セミスタティックを持って行かない人もいる)
特有の事情
洞窟探検(ケイビング)
SRT(2anchor, 1line)。
特有の事情
- アンカーの破断リスクが高い(岩の風化具合に依存する)
- アンカーは人工アンカーを使うため、取り放題
- 岩に当てれば、ロープは切れる...が、回避のための人工アンカーは取り放題
バックアップのとり方
バックアップのとり方の組み合わせについて検討していきましょう。
MRSかSRSか
最近、樹上作業(ツリーワーク)業界では、MRS/SRSという用語が登場しました。 これは他のオンロープ技術においても重要な区分であり、どちらを採用するかによって、ライフライン(バックアップライン)の運用方針が変わります。
- MRS(Moving Rope System)
ロープ自体が動くロープシステム。
レスキュー時の引き上げや、樹上作業(ツリーワーク)におけるDdRTが該当する。
レスキュー時など、メインおよびバックアップが可動する場合、2テンションが安全とされる(擦過箇所が常にずれるため(?)、1テンションと2テンションの間に有意差が無い。自由落下距離を限りなく0にする方針)。 - SRS(Stationary Rope System)
ロープ自体は動かないロープシステム。
産業用ロープアクセスや洞窟探検、山岳などによる下降器を使った下降はこれに該当する。
産業用ロープアクセスなど、メインおよびバックアップが静置される場合、1テンションが安全とされる(擦過箇所が常に一定であり、局部的なダメージの蓄積が発生する。2テンションにしてしまうと、メインとバックアップが同時に切断される恐れがあるため、1テンションが優位。自由落下距離が発生するため、必ず運動エネルギーが発生する。身体にかかる衝撃荷重を逃がす方針)。
※MRS/SRSの混在システムについては、検討できていません。
アンカー部分
アンカーは合計して、原則2つ以上のものから分散して取得します。
ただし、現在行われている各種活動を見ると例外が存在します。
それは...
- ボムプルーフアンカーであること
爆弾が落ちても、およそ破断しないであろう巨木や鋼材などを指す。
これを満たす場合、ひとつのボムプルーフアンカーに複数のシステムを接続することは、どの業界においてもOKとされている節があります。ただしこれはあくもでも例外処理として、チーム内でボムプルーフの統一見解を持っていないとエラーを生む危険性があります。形式的・慣習的なアンカーの二重化は、活動環境が変わった瞬間には新たなリスクとして牙を向いてきます。
予防のためには、日常的なクロスチェックが必要です。
ただし、樹上作業(ツリーワーク)における、メインアンカーは1つであることが多く、これについての整理はまだ出来ていません。主幹に対しての巻きつけであれば、ボムプルーフアンカーであろうと見なすことは可能な範囲です。
この点についての見解は、調査・検討を続けており、Petzlがフランスの団体に寄稿した文書, HSEにおける文書を現在読解中です。
問題として思うのは、対象木へのエントリー(初回アクセス)時のアンカー破断リスクが一番の問題であり(近接確認出来ていないから)、二重化したいところは実は作業前の最初の部分...出来れば違う枝、違う立木からバックアップを取りたいというのが本音です...作業性とのバランスもあり、悩みどころです。※ この点も未整理の部分です。
※ 上記の通り、対象木をカットする時にはランヤードをかけ...メインロープがバックアップに、ランヤードがメインに切り替わります。
身体 - アンカー部分
形は違えど、合計して2つのロープが身体に接続されている状態を目指します。
主に以下の三種類を組み合わせでバックアップをとります。
組み合わせ候補
- ロープ(ライン)
- ランヤード
組み合わせ
- ロープxランヤード
- ロープxロープ
- ランヤードxランヤード
レスキュー時の大前提
さて上記を踏まえ...どの環境においても、レスキュー時においては、2系統が確立されているというのは重要な事項です。
...つづく
代表 伊藤
Posted by norimitsu.i at 8:52 日時 2020/07/31
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